キトサンとその化学修飾体の分析化学への利用

 キトサンはグルコサミンがβ-1,4 結合で重合した天然のアミノ多糖です。この物質はエビ・カニの甲羅に存在するキチンを脱アセチル化することで得られます。キチンとキトサンの違いについて厳密な定義はありませんが、一般に脱アセチル化率が約80%以上のものをキトサンと呼んでいます。キトサンはセルロースに次ぐバイオマスで、その構造も類似していますが、セルロースに比較すると産業的な利用はまだ発展途上にあります。

    

 キトサンはその構造から予想されるように、反応性の高い2位のアミノ基を介してさまざまな修飾体に誘導することが出来ます。我々はキトサンを化学修飾して元来キトサンの有する機能や特性をより高度化し、分析化学的な利用を図っています。

 例えばサリチルアルデヒドとの反応で生じたシッフ塩基を還元すると2-ヒドロキシベンジルキトサン(HBC)が合成でき、HBCで修飾したグラッシーカーボン電極を用いてCV法により銅と鉛イオンを選択的に分析することが出来ます。また、ピリドキサール類似体で修飾したキトサンを感応部に持つ光ファイバセンサは亜鉛イオンに対して蛍光性の応答を示します。

 キトサン/ポリビニールアルコールをクラッドとする内部全反射型の光ファイバセンサはクラッドの屈折率変化を利用したものですが、水中の有機溶媒に応答を示し、特に酒類中のエタノールのリアルタイムな定量への利用が期待できます。また、クラッドを色素で修飾することで有機酸に対する選択性を高めたセンサを構築できます。

 一方、シクロデキストリンを分枝させたキトサンを固定相とするHPLCでは、アミノ酸誘導体に対して、通常のシクロデキストリン固定相の場合と異なるキラル分離挙動が見られます。同様にHPLCキラル分離への利用例として、配位子交換モードを発現する固定相を挙げることが出来ます。この固定相に用いる誘導体は、キトサン骨格に新たなアミノ酸配位子部位を有し、キトサンとα-ケト酸とで生成したシッフ塩基を還元すると得られます。

現在は、ゾルゲル法を用いてキトサン修飾体をシリカゲルマトリックス中に包括させたHPLC固定相の調製および、シリカゲル部位に化学修飾でさらに機能を持たせることで、包括ポリマーと修飾シリカゲル部位の2重認識場を有する固定相の開発を行っています。


HBCで修飾したグラッシーカーボン電極

A Glassy Carbon Electrode Modified with N-(2-Hydroxybenzyl)chitosan for voltammetric Determinations of Cu2+ and Pb2+

(Y. Kurauchi, E. Tsurumori, K. Ohga, Bull. Chem. Soc. Jpn., 62, 1341 (1989).

ピリドキサール類似体で修飾したキトサンを感応部に持つ光ファイバセンサ

Fluorometric Determination of Zn2+, Cd2+ and Ga3+ Ions with a Fiber-Optic Sensor Having a Pyridoxal Isomer-Modified Chitosan/Agarose Gel as a Sensing Probe

(Y. Kurauchi, R. Hayashi, N. Egashira and K. Ohga, Anal. Sci., 8, 837(1992))

キトサン/ポリビニールアルコールをクラッドとする内部全反射型の光ファイバセンサ

Fiber-optic Sensor with a Chitosan/Poly(vinyl alcohol) Cladding for the Determination of Ethanol in Alcoholic Beverages

(Y. Kurauchi, T. Yanai, N. Egashira and K. Ohga, Anal. Sci., 10, 213(1994))

有機酸に対する選択性を高めたセンサ

Fiber-optic Sensor with a Dye-Modified Chitosan/Poly(vinyl alcohol) Cladding for the Determination of Organic Acids

(Y. Kurauchi, T. Ogata, N. Egashira and K. Ohga, Anal. Sci., 12, 55(1996))

シクロデキストリンを分枝させたキトサンを固定相とするHPLC

Preparation of a b-Cyclodextrin-Modified N-Carboxymethylchitosan and its Chromatographic Behavior as a Chiral HPLC Stationary Phase

(Y. Kurauchi, H.Ono, B.Wang, N. Egashira and K. Ohga, Anal. Sci., 13, 47 (1997))