研究内容:大賀グループ

研究課題①:動的溶媒効果を用いた液相有機反応機構の研究

 高圧力と高粘性媒体を用いた超高粘性反応場では,溶質分子の構造変化と溶質を取り巻く溶媒和の揺らぎが同期できない非平衡状態になり,反応の進行が溶媒和の動きに依存する,すなわち動的溶媒効果が現れます。われわれは反応速度定数の圧力および粘度依存性を調べることにより,活性化体積と動的溶媒効果の現れる粘度領域と反応速度定数の関係から,反応に対する溶媒の動的な関わり,すなわち溶媒再配列の影響を評価する手法を確立してきました。この手法を用いると,これまでは実験的には全く得ることができなかった,反応過程におけるミクロな溶媒―溶質相互作用についての情報が得られることができます。
 例えば,嵩高く溶媒と接する表面積が大きな溶質(反応分子)ほど,反応の進行に伴う溶液中での構造変化の際に,溶媒との間により大きな摩擦をうけると考えられますが,従来の有機反応機構論に基づく手法(Hammett則,mY関係,Yukawa-Tsuno式など)では反応途中のダイナミクスに関する情報は得られません。ところがわれわれの手法を用いて,置換基の嵩高さと動的溶媒効果の現れ方を比較することにより,溶液中で分子のどの部分が主として構造変化して反応が進行しているかを実験的に示すことができました。
 また溶媒の静的相互作用が反応の動的挙動に与える影響についても,我々の手法を用いてしかし静電相互作用の強い反応系において,溶媒再配列の進行は相互作用のために妨げられ,特に水素結合が可能な溶質-溶媒の組み合わせでは,溶媒粘性から予測される以上の強い動的溶媒効果が観測されています。
 反応における基質―溶媒の非同期性は,酵素が関与する生体内反応のうちプロトンリレーや電子移動などでも起こることが知られており,われわれの実験手法とデータは,非平衡条件下での化学反応理論の確立に貢献できると考えています。

発表論文

  • K. Sugita, Y. Goto, M. Ono, K. Yamashita, K. Hayase, T. Takahashi, Y. Ohga, and T. Asano, “A New Application of High-Viscosity Kinetics. An Attempt to Identify a Site of Solvent Reorganizations around a Reactant”, Bull. Chem. Soc. Jpn., 77, 1803-1806 (2004).
  • Y. Ohga, Y. Kakitsuba, K. Suzuki, Y. Arakawa, J. Murawaki, Y. Amano, T. Takahashi, and K. Iio, “Photochromic Behaviour of 3,3-Diaryl-3H-naphtho[2,1-b]pyrans Having Polar Substituents on Aryl Groups. Electronic Substituent Effect and Dynamic Solvent Effect on Thermal Fading Process”, Journal of Photocatalysis Science, 3, 41- 47 (2012).
  • Y. Shigemitsu and Y. Ohga, “Computational Analysis of Solute–Solvent Coupling Magnitude in the Z/E Isomerization Reaction of Nitroazobenzene and Benzylideneanilines”, J. Solution Chem., 47, 127-139 (2018)
  • Y. Shigemitsu and Y. Ohga,”Numerical Analysis of Solute–Solvent Coupling Magnitude in the Thermally Backward Ring Closing Reaction of Spirooxazines”, J. Solution Chem., 49, 902-914 (2020).
  • R. Akisaka, Y. Ohga, and M. Abe, “Dynamic Solvent Effects in Radical–radical Coupling Reactions: An Almost Bottleable Localised Singlet Diradical”, Phys. Chem. Chem. Phys., in press. doi: 10.1039/d0cp05235c

研究助成

  • 科研費 基盤研究(C) 18550040 酵素反応モデルを指向した錯体配位子の構造変化における溶媒ダイナミクス(代表)2005-2007
  • 科研費 基盤研究(C) 24550058 動的溶媒効果が及ぼす凝縮系の化学反応についての理論および実験化学的研究(分担)2012-2014
  • 科研費 基盤研究(C) 17K05789 液相有機反応における溶媒ダイナミクスの実験および計算化学的解明(代表)2017-2019

研究課題②:活性化基を活用する効率的なカルボニル官能基導入反応の開発

 カルボニル官能基(アルデヒド,ケトン,エステル等)は,高分子や医・農薬等の機能性材料にしばしば見られる構造であり,新たな物性や機能の発現において重要な役割を果たしています.また,カルボニル官能基は多様な官能基に変換できることから,多様な骨格の起点となる合成中間体としても幅広く用いられており,合成化学の分野においても重要です.一般的にカルボニル化合物の合成はアルコールやカルボン酸等,カルボニル官能基に相当する部分への変換反応によって行われていますが,生成するカルボニル化合物の構造は原料に大きく依存することになります.一方,別の合成アプローチとして求核アシル置換反応に代表されるように炭素骨格へカルボニル官能基を増炭的に導入する方法があり,原料に依存することなく種々のカルボニル化合物を合成できる自由度の高い合成法となります.しかしながら,この反応では一般的にカルボニル基を含む合成ユニットに対し炭素求核剤を作用させており,生成したカルボニル化合物も高い反応性を示すため,さらに炭素求核剤と反応する過剰付加の抑制が大きな課題となります.
 我々の研究ブループではこれらの課題を解決するため,カルボニル基合成ユニットに適当な反応性を付与する活性化基の探索及びそれらを用いた反応を検討しています.活性化基には,炭素求核剤に対するカルボニル基の反応性を増大させる一方で,過剰付加反応を抑制するために付加中間体を安定化する効果が求められます.そして,活性化基は目的とするカルボニル化合物を生成するよう反応終了時に容易に脱離する必要があります.これまでに見出した活性化基を利用したカルボニル官能基導入反応によりカルボン酸誘導体及び非対称ケトンの合成を行ってきました.現在,本反応を様々な有用化合物合成の鍵反応として応用するとともに,反応概念を展開したさらなる新反応の開発を目指して研究を進めています.

発表論文

  • S. Hirao, Y. Sugiyama, M. Iwao, and F. Ishibashi, “Synthetic Approach toward the Telomerase Inhibitor Dictyodendrin B: Synthesis of the Pyrrolo[2,3-c]carbazole Core”, Biosci. Biotech. Bioch., 73, 1764-1772 (2009).
  • S. Hirao, Y. Yoshinaga, M. Iwao, and F. Ishibashi, ”A Formal Total Synthesis of the Telomerase Inhibitor Dictyodendrin B”, Tetrahedron Lett., 51, 533-536 (2010).
  • S. Hirao, K. Kobiro, J. Sawayama, K. Saigo, N. Nishiwaki, “Ring Construction via Pseudo-intramolecular Hydrazonation Using Bifunctional δ-Keto Nitrile” Tetrahedron Lett., 53, 82-85 (2012)
  • H. Asahara, A. Kataoka, S. Hirao, N. Nishiwaki, “Functionalization of a Pyridine Framework through Intramolecular Reissert-Henze Reaction of N-(Carbamoyloxy)pyridinium Salts and Unexpected Insertion of Ethereal Solvents” Eur. J. Org. Chem., 18, 3994-3999 (2015)
  • F. Ishibashi, T. Fukuda, S. Zha, A. Hashirano, S. Hirao, and Masatomo Iwao, “Concise synthesis and in vitro anticancer activity of benzo[g][1]benzopyrano[4,3-b]indol-6(13H)-ones (BBPIs), topoisomerase I inhibitors based on the marine alkaloid lamellarin”, Biosci. Biotech. Bioch., in press.

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